『檻の外』 木原音瀬
『檻の外』 木原音瀬
この別館をつくるきっかけとなった『箱の中』の感想はあちらで散々わめいたので
文庫版には収録されていなかった、『雨の日』、『なつやすみ』のことを。
おもしろかったです。
以下ネタバレ込感想。
『雨の日』
読者サービス的な。すかすかだった喜多川にいろんな感情が満たされていく。
喜多川を選んだ堂野も、ただ流されてただけではないんだって思えてよかった。
短い短編だけど、間にはさまれたワンクッション。
『なつやすみ』
檻の外の終盤で離婚の条件として認知した息子・尚の視点から描かれる話。
小学2年生になった尚が、「お父さんに会いたい」と一人、堂野を訪ねたことから始まる。
小説を読んで少々潤むことはあっても本当に涙流しながら読んだ本は久しぶりだよ。
穏やかだ。
作者あとがきで「喜多川の人生を書ききった」とある通り。
「家があって、あんたがいて、犬が飼える。夢見てた通りだ」と些細な幼い夢を語り、
「死ぬまで一緒に居てくれ」と願った喜多川。
50そこそこという短すぎる一生を、堂野に看取られながら終われた喜多川は幸せだったと思っていいよね。
「一緒に死にたかったな」とつぶやく堂野が悲しいけれど。
尚も大人になり結婚し子どもが生まれ、そして尚が幼いころ受け取った喜多川の優しさが受け継がれていくんだなぁと思えるラストシーンは切なくさわやかでした。
ここまで読んでやっと完結ですよ。
文庫版だけでは足りないよ。
蛇足の蛇足なネタバレ感想。
『箱の中』の感想ではボコボコに言ってしまいましたが、堂野の元妻・麻理子のことも…。
堂野と離婚後、再婚はせず一人で尚を育てる。離婚の原因や父親のことなどは尚には話さず(まだ子供だもんね…。)
堂野の家から尚を連れて帰る時の会話、
「お母さん、どうしてお父さんのこと嫌いになったの?」
「…嫌いになんかなってないわ」
「じゃあどうしてお母さんはお父さんと離婚したの?
お父さん、優しいのに…」
尚の問いかけに、
「知ってるわよ、そんなこと
知ってるわよ…」
と静かに泣く麻理子は、読んでてすごく小さく見えた。
喜多川が尚に言う、「お前のお母さんは、優しくていい人だ」というセリフは本心そのままの意味なんだろうな。
普通に考えてかなり不審な喜多川にも優しくしてくれたし、何より堂野の娘の母親だったし、
尚のまっすぐな育ち方から見ても、一生懸命愛して育てられたんだなと思う。
尚が中学一年生の頃、麻理子は不倫相手だった(尚の遺伝上の父親の)田口と再会、
その後再婚する。何も知らない尚は、自分のお父さんは堂野だけだ、と田口を「お父さん」とは呼ばない。
それが田口にとっての罰みたいなものだったのかなぁ。
「よく喋ってよく笑う明るい人」と尚が評した田口も、悪い人ではない。
どっかで歯車がずれてしまっただけで。
人間って複雑よ。
尚18歳の時真実を知る。
「母さんが田口と浮気して、僕ができて、父さんと離婚した。離婚したあと、母さんは浮気相手の田口と再婚して、父さんはおじさん(喜多川)と恋人同士になった。言葉にすればまとまる。まとまるけど、そこに感情がついていかない」
きついよなぁ。
何より、堂野にとって自分は「妻が自分を裏切った証」なのではないかと考えが至ってしまうとどうしようもない。
でも尚くんや、堂野は君を可愛がっていたし愛してたよ。それは疑わないでおくれ…と思った。(きっとちゃんと解ってるよ。)
堂野が、自分の前に現れた尚を受け入れることができたのはきっと喜多川が居たからだ。
人が人を想う事と優しさが巡りめぐる。
文庫版「箱の中」を読んだあとのもやもや感は晴れました。
読んでよかった。
散々ネタバレした後であれですが、ぜひ読んでもらいたい一冊。
おもしろかったです。
by nekozakki
| 2012-10-06 22:00
| ★:小説(BL)
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